現代アート入門の入門 (光文社新書)

現代アート入門の入門 (光文社新書)

現代アート入門の入門 (光文社新書)


本屋巡りとかAmazon巡りとかしてると新刊ばかり手に取って何とか時代から送れまいとするわけですが、当然に追いつけるわけもなく網羅し続けることが出来るわけでもなく、たまに数年前の本にいたく感銘し、なぜもっと早く手に取らなかったのかと嘆くことはある程度しょうがないわけです。が、この本だけはもっと本当にもっと早く読みたかったなぁ、と。時間は帰ってこない。。。


現代アートだろうとトラディショナルアートであろうと、自分の場合、それを見るという行為そのものが目的化しがちなんですよね。上野の国立西洋美術館の「地獄の門」とか大好きで、日がな一日、その前に佇んでいたこともありました。そこからボードレール読むぐらいの派生はするんですが、それも何か人の目を気にしてだし純粋に芸術を楽しむというのには程遠い人生でした、これまでのところ。


入門の入門というだけあって大変に親切な本書は、著者が現代アートに傾倒する理由から始まって、最終的にはどうすれば楽しめるのかまで非常に具体的にガイドしてくれてます。くわえて、日本の代表的な現代アート系のアーティスト/作品の解説からおすすめ美術館リストまで。日本のアート業界が抱える問題とか国際比較とか、もうまさに至れり尽くせりの内容ですね。これぞ熱意のなせる業、どちらかというと中高生必読ではないでしょうか。豊かな人生に確実に近づける気がする。


2001年の横浜トリエンナーレに出てた小さいエレベータについても言及されてた。O須賀先生と一緒に見に行って色々と衝撃を受けたのは記憶に新しいところですが、そういえばドアが開いたエレベータにタバコの箱を入れたら即座にドアが閉まってしまい、「やべぇw」とか言ってたら後ろから別のお客さんが来たタイミングで再び扉が開いて「すごーい!タバコが入ってる−!」とマウリツィオさんの作品に見事にひと花添えた瞬間でした。いま思い出しても相当笑える。




メモ:

  • P.22 しかし、日本人は本当に印象派が好みなのだろうか。中学や高校の美術の教科書で知り、何となく他に強烈にこちらがよいというようなライバルもないまま印象派好きになってしまっているのではないだろうか。
    • なぜ知ってるんですかw


  • P.25 3つに分けると考えやすい。トラディショナルアート、歴史的に見てめんめんと続いている伝統的芸術。オーソライズドアート、権威として社会的に認知されているもの。コンテンポラリーアート、それ以外。


  • P.31 むしろ積極的に人や社会と関係を結ばなければ、現代アートの表現は出来ない。


  • P.50 ロンドンの観客はアーティストを育てる、ニューヨークはその育ったアーティストをメジャーにして売ってビジネスにしてゆく場所である。心地よいカフェとメジャーへアーティストを送り出すゆとり。それが感じられるのがロンドンであり、最新のテート・モダンである。
    • そうなの?>Mickさん


  • P.66 要するに日本の貸し画廊制度というのは、長年にわたり若いアーティスト達、それも学生から最初のプロになる次点の最重要期に、一見何らかの意義があるように見せかけながら、ある意味ではアーティストから搾取してきた制度なのだ。


  • P.82 日本の美術館というのはなぜ静かにしないと行けないのだろう、中略。現代アートはコミュニケーションのための道具であると思う。だから意見や感想の違う人とディスカッションすることも現代アートの面白さの一つである。


  • P.110 欧米のアーティスト達が、戦争や貧困や差別、宗教的紛争などを身近に抱えているのに対して、日本人は危機的な問題はとりあえず身近には感じておらず、それゆえリアリティのある表現が希薄になっているのだ。
    • 豊かさの先にあるのが芸術っていう考えもあるけど、豊かさが感性/感覚を鈍くするってのが最近はピンと来ますよね。もっと研ぎ澄まさないと。


  • P.117 ユビキタスコンピューティングの中で、アート作品やアーティストもユビキタス化する。それはアートと他の分野の境界が曖昧になったり、コンピュータのネットワークが拡大、進歩することによって起こる。言い換えれば、あらゆるところにアートがある状態になり、またアーティストそのものの意味が多様化する。
    • フラット化、ってここまで含んでたんですね。コンピューティングは勿論、アーティング(?)も含め、あらゆるものがユビキタス化するわけだな。


  • P.148 国内の芸術文化環境の問題点。

1.国や自治体の芸術支援は展覧会場や演奏会場の整備という「鑑賞段階」に偏っており、「ハコ型」の文化行政、文化支援が顕著である。
2.アーティストが求めているのは作品を想像する過程で必要不可欠なアトリエや練習場の確保や材料・機材の調達やプロモーションすることなどで、こうした環境の不備が作品の質の向上に大きな障害になっている。
3.アート、音楽、演劇などさまざまな芸術分野で活動しているアーティスト達の横の交流がほとんどなく、そのことが芸術界全体の閉塞感を生じさせている

  • P.184 宇宙を梱包する、「宇宙の缶詰」。かにの缶詰を開けてカラにし、表にあったラベルを内側に貼る。ラベルが内側になったところで、缶詰を半田付けして元の缶詰に戻す。そうすると、中と外が反転した缶詰が出来たわけで、宇宙が缶詰の中にあるカニ缶が完成したのだった。宇宙の缶詰はカニ缶だったというわけだ。


  • P.189 アート作品とは問いかけである。問いかけなのだから、質問がどんどん出てくる作品はできの良い作品であることは間違いない。


  • P.204 フィクショナルフィクション。作品の全部が本当とは言えなくても、記憶している本人にとってその記憶こそが真実。