フェリカの真実 ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由
フェリカの真実 ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由
- 作者: 立石泰則
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2010/11/13
- メディア: 新書
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Felicaの生い立ちと苦悩、栄光と挫折?、少しだけ今後の展望。そこに携わる方々へのインタビューなんかに基づいて。
「ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由」という素敵なサブタイトルが冠されていまして、確かに自分自身、Felicaに対してはそんなイメージを持ってました。とはいえ、人様に説明できるほどのネタは持って無くて、いやうちはISO15693のほうがメインなんでとか逃げてきたわけですが、明日から立派に知ったかぶり出来そうです。
あと、RFIDというかICタグの業界の歴史を振り返るという意味でも面白い。まさかSUICAの起源が宅配便の仕分け業務にあるなんて。プロトタイプがマイクロ波とは聞いてたけど、電池のせたまま行くつもりだったなんて、とか。実導入しちゃってから干渉問題が発覚して使い物にならなくなっちゃったり。歴史を学ぶことで現在の仕様の根拠が見えてくるってのは大袈裟だけど、先達の苦労のうえで生きてることは間違いないですよね。
そして、せっかく良い技術があっても、ビジネスモデルの正解が見えていても、全く不合理な理由からそれが実行されなかったりとか。本当に勿体ない。競合技術との競争じゃなくて、大企業病というか腐りかけた自社ブランドへの盲信だったり、数字しか見られない銀行系役員の過失だったり、ただの自滅かと。
あと印象的だったのは、日本の場合DOCOMOという巨大なブランドの存在。ドコモのおかげで発行量は増えたけど、そのおかげでほとんど使われていない状況を生み出したような気がする。完全にオープンにしたところで成功する保証はないので、どうせ日本でしかやらないなら苦渋の選択ながら戦略的には有りだったのかも。NFCで巻き返せるといいですねー。
メモ:
- 「もし(ソニーの非接触ICカードが)香港に入ったら、もうソニーは逃げられないだろうと、もう(非接触カードの開発を)止めるとは言わないだろうと(思いました)。」三木さん。P.83
- 「分かった。(ソニーは)マイクロ波から短波に変えるし、バッテリも外します。これで、どうですか?」伊賀さん。P.89
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- 男前だ。まぁ、既にMifareでてる時代ですし見通しはあったんでしょうけどね。
- オクトパスは香港市民に認められ、急速に普及していった。ソニーの情報処理研究所にいた伊賀章が宅配業者の要望から無線タグの開発に着手してから九年余りが経っていた。P.111
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- 9年も継続的に投資してくれるのがすごい。
- 「あそこでJRと組めなかったことが(エディの)そもそもの失敗だったと思っています。私は何回も(ソニーやビットワレットの幹部に)言ってきました。エディを単独のカードで出すことは、いわば「不死身の巨人(JR)と素手で戦っているようなものなんですよ」と。だって、彼らは電子マネーで絶対に損はしないんですよ。するどころか、電子マネーが基盤になっているアプリケーション(電子乗車券)を持っているからこそ、どれだけ出費して端末をばらまくことをしても運用コストと考えればいいだけのこと。それに対しエディは端末の設置や販路の開拓などに膨大なお金がかかる事業をやろうとしているわけですから、競争相手にはなりません。」日下部さん。P.150
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- ここが分かってるようで分かってなかった一番のポイント。身の回りの不死身の巨人(プレイヤーとしてだけではなくモノとかプロセスも含めて)を探して、そこに組み込むという視点は有用だ。
- JRとは組まなかったのにドコモとは合弁会社を作ったねらいは、ひとつはおサイフケータイに限らず、ドコモとのさらなるビジネスの拡大を期待したこと。もうひとつは、市場に出回っている7千万台のドコモ製携帯電話すべてをおサイフケータイに確実に切り替えるビジネスチャンス、つまりモバイルフェリカ・チップの大量販売を狙ったもの。あと不具合があったときのリスクヘッジも。P.162
- ソニーの経営陣は有力なオペレーターであるJR東日本と組むことを拒否し、中略、メモリの管理というソニー単独でできるビジネスを始めるにあたっては、ドコモと組んでフェリカネットワークスを設立し、利益を分け合う道を選択する。(その後、JR東日本も出資したけど)P.180