美術手帖(2008年7月:日本のアーティスト・序論)

美術手帖 2008年 07月号 [雑誌]

美術手帖 2008年 07月号 [雑誌]


今年はアート的なものについて理解できないまでも興味を持つぐらいはしたいなと思って色々やってますが、その一環として読んでみました。ちなみに、横浜西口古書祭りにて購入。630円だったのでAmazonマーケットプレイスの最低価格より安いですね。2008年7月号と少し古いんですが、私には充分に刺激的な内容でした。


特集の1つが「アーティストによるアーティスト論」。見開き2ページの狭いスペースで、総勢30名のアーティスト達がプロフィールとか作品論とか最近考えていることなんかについて自ら書き連ねる、という企画。


奈良美智さんとか高嶺格さんとか見知った名前もあったので、その辺りで自分好みのアーティストが見つかるといいなぁとか思ってたんですが、文章を読むだけでお腹いっぱい。さすがに皆さん凄まじい完成と表現力だなぁ、と。


ねらいとしていた俯瞰性の確保についてもそこそこの成果、だと思うけど2008年の話だしね。updateしていかねば。


何よりビックリしたのは、ライフログを考えるときのヒントが大量にありすぎたこと。過去の経験により今後の生活の限界効用を最大化しようというのが一般的なライフログの活用法だと思うのですが、実はそれだけじゃない。過去から現在そして未来をつなげていくということには、もう少し深遠なテーマが秘められていて、その表現手法を極めていくのは即ちアートの領域に立ち入ることになるかもしれないということ。いよいよ楽しくなってきました。


あと、今さらながらよく分かったのは現代アートにおけるテーマって明るいものだけじゃないんですよね。「喪失の恐怖に打ち勝つために「死体」や「破壊」をテーマに作品を打ち出す」西尾康之さんとか凄まじいですね。目を背けそうだけど怖いもの見たさが勝つ。


メモ:

  • P.24 私が望むのは、物と物との現実的な関係の再現や認識ではなく、このように現実から受け取ったものに、より能動的に関わることによって、それ自体が経験となり、新たな知覚やイメージを生み出し、現実世界の認識を変容させる可能性を持った作品です。(池田光弘さん)
    • ライフログデータの活用に関してイメージが一致している


  • P.34 若いころは、ただただ立派な人間になりたいと思っていました。立派な人間とは、利益を再分配できる人のことで、自分が生きていることで不利益を被っている人については常に気になります。あと、知識の再分配ということでいうと、いい教育者になりたいというのは永遠の夢です。しかし、物覚えの悪い自分には「分配」できるものがあまりないので、いい瞬間をどれだけ一緒に作れるかということになります。(高嶺格さん)


  • P.42 あるときふと気づきましたが、自分の今やっていることは、やっぱり今はちゃんと言葉に出来ない。どうしたって時間がかかわるんだと思いました。自分が今つくっている点を自分で線にしてはじめて、一昔前のことが言葉にも出来るんだと思います。(小西紀行さん)
    • これまた、ライフログデータの活用に関してイメージが一致している


  • P.52 展示では収集したオリジナルをそのまま見せることはしない。古い写真や物はそれ自体が完璧なドラマを備えているため、ただ並べるだけではフェティシズムに陥ってしまうのだ。(木村友紀さん)
    • これもだ、ライフログデータの活用に関してイメージが一致している



ーP.87 物体は名前が付いた時点で、すでに存在する認識の中に回収されてしまう。物が記号化される前の状態を捉えようとするときに、マテリアルの持つ可塑性、あるいは不定型な状態への意識が高まるんじゃないかな。(池田剛介さん)

  • P.171 これからの日本社会はこれ以上の経済成長が見込めるわけではないし、世界人口が爆発的に増加してきて食糧問題も真剣に考えざるを得なくなってくる。そうした時代を経済だけでなく精神的に豊かに生き延びるためのヒントが、今までに廃棄してきたものの中にある。(柳幸典さん)


  • P.174 ゴミ処理場だったということに蓋をするのではなく、あえて見せていくことで、文化装置として有効利用できるんじゃないか。公害で知られてしまったようなマイナスのイメージをプラスのイメージに逆転させる、それがアートの力なんです。(柳幸典さん)