こころの情報学 (ちくま新書)

こころの情報学 (ちくま新書)

こころの情報学 (ちくま新書)


読み終わってからしばらくたってからメモを書こうとすると手間ですね。今後は短くてもすぐに書くようにしましょう。


情報学なんて拡がりがありすぎて、独立した学問領域として捉えていいんだろうかとか思ってたんですが、本書をひとしきり読んだら何となく俯瞰できたような気になりました。


「この本は分厚い割には情報量が少ない」


この表現に潜む矛盾について考えるだけでも結構な時間を浪費できそうな気がするんですが、本書で言及されている個別の論点が結構おもしろいです。情報学として構築することはどうでもいいけど、「情報」の観点で物事を考え直してみることはある種のトレーニングにもなるような。


メモ。

  • われわれは過去の自分の記憶をもとに環境世界を意味解釈しています。その意味解釈の結果が、また記憶に追加されていくわけです。これを図式的に捉えれば事故循環しているように見えるでしょう。中略。すなわち生物とは、いわば歴史を抱え込んだ存在なのです。非生物であるモノ(たとえば岩石)を記述するにはその物理的な構造からはじめればよいのですが、生物の認知活動を記述するには、歴史的側面を無視することは出来ません。そして、この歴史性すなわち時間的累積性こそが、<情報>の本質的特徴なのです。P30
    • 自動認識技術を活用したライフログコンサルティング(はやくやりたい)、の支柱になりそうな表現が第一章から飛び出して、これだけで720円のもとはとれたな、って感じですw


  • こうして記号表象が出現することになります。きわめて乱暴にいえば、記号表象は非記号表象を抽象化し、単純化することによって、他人に伝達可能とし、体系化できるようにしたものです。ここで「体系」とは、理想的には、それで宇宙の晩鐘を記述できるような仕組みのシステム、とうことです。P.62
    • 人と人の間では共有しにくい(だから共有できると気持ちよい)非記号表象について、同じ人の中で昨日から今日へ、今日から明日へ、先週から来週へ、しかもタイムリーに受け渡していくような仕組みをつくることをライフワークとしたい。


  • 生物の認知活動を理解する為には、「内側」から歴史に沿って見なくてはならない、という点です。なぜなら認知をつかさどる神経系は、種としての遺伝と個体としての学習という過去の歴史において自己回帰的に形成されるものだからです。それゆえ、時間的歴史的な経過を捨象し、普遍的な記号表象野システムとして生物の認知活動をコンピュータでシミュレートすることは出来ない、ということになるわけです。P.77
    • 恥ずかしながら「オートポイエーシス」という言葉は本書を読むまで知りませんでした。社会ネットワーク理論とか社会関係資本とかやってたころに、この観点のパラメータを入れてれば面白かったかも。


  • 物理学者のエリッヒ・ヤンツは心的システムの中に三つの段階があると述べます。第一は、「生体(organic)段階」で、これは単に自己を存続させ、表現するためだけのものです。第二は「反照(reflective)段階」で、外部世界を内部世界に映し出して再構築する働きをもちます。ただしこのとき、外部世界が内部世界に記号表象システムとして鏡のように投影される訳ではなく、内部世界は外部世界との相互作用と通じて歴史的・自己言及的に構築されるのです。このときまた、内部世界に一種の配置観すなわち「時間や空間のひろがり」が出現してきます。さらに、第三の「自省(self-reflective)段階」においては、構築された内部世界のなかに自分自身の像が描かれることになります。ここで、自己の行動をみつめ、その行動によって外部世界を変更していこうという働きかけが生じているというわけです。そしてヒトの心が第三段階の自省段階の心的システムに対応しているのはいうまでもないことでしょう。P96
    • 報酬と行動との間に意識を介在させるということを出来ているか、常に見直す必要があると思う。連想ゲームの奴隷ではいかんでしょう。


  • ヒト以外の動物では、心的システムを支える基盤は主に環境世界から時々刻々得られるアフォーダンスだといっても過言ではありません。そしてアフォーダンスを特定するのは環境世界で知覚される非記号的な素情報(光刺激など)であり、それらは環境世界の事物の物理的性質を反映しているのです。しかし一方、「ヒトの心」を支える基盤はアフォーダンスだけではなく、むしろ記号的な言語情報なのです。中略。言語情報の役目は、現実に目の前に存在する果実をさすだけでなく「不老長寿の果実」といった架空の存在を象徴することでもあります。それはアフォーダンス理論ではまったく説明できない存在です。にもかかわらず、それはヒトの心において一種のリアリティを形作れることは言うまでもないでしょう。以上のべてきたように、人の心の特徴とは「アフォーダンス理論の射程から外れる意味作用」をふくむという点なのです。そしてここに、ヒトの社会的独特の権力や規範が生まれる原因があるわけです。P164


  • 印刷機械ができ、テクストの自動的な大量生産が可能になって初めて<機械情報>すなわち「意味解釈の存在しない情報」が明確に誕生したといえるのです。中略。象徴的なのは「索引」の出現でしょう。中略。索引は文章ではないため、声に出して読まれることもありません。こうして本は、順に読んでいくための「声の痕跡」だけでなく、むしろ、索引から必要な部分を参照し、調査する空間的なデータベースとなっていきました。P170


    • 日常生活を行動のみならず環境要因も含めて索引化してみたい。あと、記号的な言語情報が集約されたデータベースを声で操作する(Google音声入力とか)ことによる驚きは、この垣根を越えるところによるものではないだろうか。