バイアウト

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幸田真音さんって前から気になってたんですが、ようやく手に取ることができました。


ちなみに、コウダマインと読みますが、ペンネームの由来が
「ディーラー・セールスの経験から「買った」の関西弁「買(こ)うた」と"mine"(マイン、買いの意。なお、売りは"yours" ユアーズと言う)を合わせたもの。」
だそうです。なんじゃそら。ふざけたペンネームとは裏腹に読ませる作品でした。


企業買収+人間ドラマみたいな王道的テーマ設定ではありますが、何しろ身に覚えがあるというか、同時代的な内容で親しみやすい。というのは、ニッポン放送買収騒動とかライブドアとか村上ファンドとか、いまや少し懐かしいあの頃が題材なんですね。


いろんな立場のいろんな人たちが登場したわけですが、彼らのアクティビティのベースとなるロジックを、ビジネスとか文化とか制度/仕組みの悪さとか人間ドラマとか、もう多様な観点から掘り下げます。本来スローモーションになってしまうようないくつかの重いテーマも、ものすごい速さで流れていく日常の中でしか取り扱うことができないのが現実なんだな、と。(うまく書けん)


そんなに昔のことではないのに、リーマンショック以前の価値観とか社会規範を懐かしく感じる。巻末の対談にもある通り、今こそ読まれるべき作品なんでしょうね。すぐ読み終わるし、文庫だし。


個人的には、経済金融小説で読み干したい作家さんをゲットできたので大満足。


以下、気になった表現の抽出。

  • 報われない苦労は、その翌朝から始まった。毎朝欠かさず数種類の市場リポートを送り、同時にメールでもこれはという案件を提示する。それと並行して、日に最低三度は電話をかけた。木村はいつも忙しげな早口で、迷惑そうな様子を隠さなかったが、そんなことでめげるようでは営業など務まらない。美潮は一日として欠かさずコンタクトを続けた。
    • こういうのは自分にはできない。たぶん部下(いないけどw)にもさせない。


  • なかに合わせた糊のきいた純白のシャツは、さりげなく三個目まで前ボタンをはずし、きめ細やかな胸元の肌をのぞかせている。どう見ても地味なはずの装いなのに、細部まで神経が行き届いているためか、強烈にこちらの目をひきつけるような確かな何かを感じさせる。プロポーションの良さも、まっすぐに伸びたその足も、どんな角度にすれば相手の目に魅力的に映るのか、緻密に計算しつくしていないとここまで完璧にはいくまい。あくまで清潔感を失わず、決して隙を残さず、そのくせどこかマチュアな柔軟さも匂わせる。三十代の女は、こうでなくてはいけない。
    • いい感じの形容の仕方だと思ったら、最後に「三十代の女は、こうでなくてはいけない。」ってのがウケた。そこかよw