終の住処

- 作者: 磯崎憲一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/07/24
- メディア: 単行本
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単行本じゃなくて、文藝春秋のほうで読みました。恒例の芥川賞作品全文掲載、感謝感激。
「妻はそれきり11年、口を利かなかった」
なんていう文章に踊らされちゃうように、表面的には夫婦仲がどうこう、みたいなストーリーですが、それ自体は面白みのある話というわけでもなく、むしろ表現技法としては読みづらい割に、読みといても旨みのない文体ですよね。でも、そこにおける「時間」の役割、その解釈を意識すると重みのある話になってくる感じ。
「ああ、過去というのは、ただそれが過去であるというだけで、どうしてこんなにも遙かなのだろう」
それが成功体験であろうと、なかろうと。時間軸上に存在していることは、長期的にはそれだけで価値がある。はず。
- 当時はもちろん、今も、楽しかった!となる思いで。
- 当時は完全なる悪夢、今となっては楽しい思いで。
マイナス感情からプラス感情に持ってくるだけ、やはり後者の方がインパクトは強烈なのかなぁ。
- さっきの小さな幸せは明日には忘れてしまうかもしれない。
- 吐き気を覚えるほどの悪夢的な出来事は、来週末の宴では最高の肴に化けてるかもしれない。
と、無理やり引っ張ってきましたが、要は「起きていることは常に正しい」的な話を、日々の生活の中にビルトインしていくときに使えそうなたとえ話かな、と。
どんなに耐えがたい感情にさいなまれたとしても、呼吸を続けて、とにかくその時間を過ごしている限り、それは何物にも代えがたい過去の生産行為にすぎないということ。そして、歳を重ねるということは、やはり果実を享受することなんでしょうね。*1
時間が解決してくれる、っていう言葉は慰めじゃなくて加速だったんだ。