会社はこれからどうなるのか (平凡社ライブラリー い 32-1)

会社はこれからどうなるのか (平凡社ライブラリー い 32-1)

会社はこれからどうなるのか (平凡社ライブラリー い 32-1)


タイトルは狙い通りに外した感じがありますが、固めの内容が嫌いじゃないです。良くも悪くも学者らしいというのか、幾重にも緻密に積み重ねられた素晴らしい結晶が、結論の段階では全く意味のない主張になっていたりしますよね。今作は、そのテーマの分析視座が時宜を得ていて良い感じ。原材料自体は数年前のものなのがポイントなんですけどね。


法人の歴史的起源がローマ時代における資本主義とは直接関係がない自治都市や植民地だったり、法人名目説と法人実在説を長々と比べ説いてみたり、日本の会社制度の形成プロセスを掘り下げたり、もう詳しくは目次みてほしいんですけど、個別には割とどうでも良いトピックを絶妙に関連づけることで見事な蘊蓄集みたいになってる感じです。ってのは失礼な言い方か。なんか、タスクに落とし込めない不満感。


日本では組織特殊的な人的資産が重宝されがちだけど、そういう観点での経験というのは例えば転職したら価値が限りなくゼロになってしまうとか。それよりひどいのは、組織特殊的な人的資産をうまくまわす為の費用を積み上げてみると、実はGNPの12%相当になってしまう試算があるんだとか。たとえば、年功賃金の年功部分とか年金とか退職金とか、会社人間としてのモチベーションを維持させる為の費用(本来は投資として勘定されるべき)ね。しかもこれはアメリカのケースなので、日本ではいったいどうなっちゃうんでしょうねぇ。


組織特殊的な人材が生涯がんばれるのは、たとえば終身雇用と年功賃金みたいな仕組みが維持されてるからなわけですが、実はその起源って、日本の家制度だったり年功賃金は奉公人制度との絡みがあったり武家制度における転職って脱藩だったりするとそれって切腹もんだったりすんのかね。日本的な経営システムは理屈じゃなくて文化なんだね、とも言える。普通そうか。


あと労働組合の話。GHQの意図としてもアメリカと同じく会社毎じゃなくて産業別組合にしようとしてたんだけど、根源的には法人実在説な日本人が会社別組合を志向したのに対して共産主義化牽制の観点で容認したり、だそうです。


商業資本主義→産業資本主義→ポスト産業資本主義への流れと、その本質を正しく理解して、IT革命/グローバル化/金融革命あたりはちゃんと結果じゃなくて原因として位置づけて議論できるようにしておかないといけない。その流れで、日本型の資本主義は、後期産業資本主義に対して高度に適応したことにより成果を残したが、いまはそこで達成された局所最適化が足枷なっているのは言うまでもない。


じゃあ、どんな会社組織になって行くべきという問いに対しては、ありきたりな回答して提示されていないのは残念。いま価値のあるモノを持っている事ではなく、差異性を生み出せるヒトであり、そういうヒトたちのネットワークの中にいることが大事みたいな話だそうです。


それにしてもよく出来た本。歴史はもっと勉強しないといけないよね。3ヶ月に1回ぐらい見返して、何らかテーマを見つけたい。